赤や黄色、紫など、バラにはさまざまな色が存在しますが、実は青いバラ(ブルーローズ)は最近まで存在しませんでした。
2009年にサントリーが開発し、「アプローズ(SUNTORY blue rose Applause)」という名前で販売が開始されるまでは、「限りなく青に近いバラ」で代用するしかなかったのです。
もともと自然界に青いバラは存在しません。バラは「青い色素」を持っていないため、人工交配だけでは「限りなく青に近いバラ」を生み出すことまでしかできなかったのです。
そんな青いバラですが、2002年バイオテクノロジーの発達と日本の研究者の努力によって誕生しました。
この記事では、青いバラがどのような経緯で誕生したのか、開発者たちの熱いストーリーを追いつつ青いバラについて解説します。
青いバラはもともと存在しなかった。
バラの愛好家の間では、青いバラは存在しないことで有名でした。
18〜19世紀の詩人キップリングの詩に「青い薔薇」というものがあります。この詩の中でも青いバラは「この世に存在しない」、「贈るのが不可能」なものとして描かれています。
そもそも、バラは青い色素自体を持っておらず、どんなに人工交配をすすめても青い色素を持たせること自体ができなかったのです。
そのため、青いバラは「不可能」、「存在しないもの」の象徴となり、ネガティブなイメージを有することになってしまいました。
限りなく青に近いバラ
それでも青い色のバラを見たいと思った愛好家たちは、別の手段で青いバラを生み出す努力をしていました。
品種改良を続けることでバラから赤い色素を抜いていき、限りなく青に近いバラを生み出したのです。
日本でも、栃木県の小林森治氏によっていくつかの「限りなく青に近いバラ」は作り出されており、それらのバラは「とちぎ花センター」で今でも見ることができます。
青いバラ誕生のカギは遺伝子組み換え技術
青いバラの誕生のカギは、バイオテクノロジーでした。青い色素を持った花から青色遺伝子を抽出し、バラの遺伝子に組み込むことでバラに青い色素を持たせるのです。
しかし、そのためには2つの大きな壁を越える必要がありました。
青い花から青色遺伝子を取り出す
1つ目の課題は、青色遺伝子を取り出すことです。
青い花に含まれる遺伝子は数万種類もあります。その中から青色遺伝子を探し出さなければバラに組み込むことはできません。
研究に選ばれたのは、花色研究に使用されていた「ペチュニア」でした。花色研究で既にある程度の知見が集まっていたからです。
これらの知見をヒントに約3万もの遺伝子から300種類まで候補を絞ると、酵母に遺伝子を注入することで発色までの時間を短縮し、実験をつづけて、ついに1991年に青色遺伝子を発見することができたのです。
遺伝子組換えバラを作製する方法を開発する
青色遺伝子が手に入れば、後はそれをバラの細胞に組み込むだけです。植物に遺伝子を入れる方法として青いバラプロジェクトが採用したのは「アグロバクテリウム」という土壌細菌を利用する手法でした。
アグロバクテリウムは自らの遺伝子を植物の染色体内に運ぶ働きを持つ細菌で、多くの遺伝子組み換え植物が、この手法で開発されてきました。
アグロバクテリウムによって遺伝子導入された細胞をバラの中に戻すのも苦労の要る作業です。
無菌状態のまま植物ホルモンや栄養分の種類、濃度などを最適化しなければいけません。
また、バラは開花までに1年ほどかかり、それまで青色が発色するかがわかりません。できるだけ多くの品種のバラに青色遺伝子を導入できるかが、実験の肝になります。
青色遺伝子の発見から3年後、ようやくバラの組織内に青色遺伝子を導入できるようになりましたが、残念ながらバラの花からは青い色素は全く発見されませんでした。
青色遺伝子が確かに入っているのに、青色が検出されないバラしかできなかったのです。
青い色素が蓄積して花の色が変化
1996年、ついに研究チームはバラの花に青い色素を持たせることに成功します。
そのバラは、ペニチュアだけでなく、パンジーの持つ青い色素を導入したものでした。
花の色もハッキリと青色が発色していましたが、遺伝子を導入したバラが赤いバラだったため、この段階では青いバラとは言いがたいものだったようです。
花の色がどのくらい青に発色するかは、そのバラの性質によるものが大きいため、市販されていないものを含んだ数百種類ものバラの中から、青くなりやすいものを絞り込み、ついに青色色素が100%近く蓄積したバラを咲かせることができました。
青いバラの名前は「アプローズ」
2002年にはその中からさらに絞り込んで、より青い系統の品種を選び出しました。
安定的に咲かせたり、接ぎ木で増殖したりすることにも成功し、2004年6月念願の青いバラ開発成功を世間に発表するに至ったのです。
そのバラは「喝采」という意味の「アプローズ」という名前が与えられ、その名の通り世界中からの喝采を受けることになりました。
もっと青いバラが欲しいなら「染め」の青バラがおすすめ
アプローズは、天然の青色素がほぼ100%のバラですが、実物を見てみると薄い青紫といった印象を受ける花です。
これはこれでとても美しいのですが、真っ青なバラを想像していた方にとっては肩すかしな印象をうけてしまうかもしれません。
そんな方におすすめなのが、染めの青バラです。
これは、白いバラに青い染料を吸わせて作る、いわば人工の青いバラで、白い花ならバラ以外でもさまざまな種類の染め花を作ることができます。
もちろん、染料も青だけではないため自分好みの色の花を作ることだってできます。
ただし、染料で染めたバラは物理的にインクを吸わせたバラなので、切り口から色が抜けてしまうという欠点があります。花瓶の水も青くなりますし、服に付いたら染まってしまうでしょう。
ドレスやテーブルクロスなどに直接触れる用途での使用は控えるようにしましょう。
青いバラ「アプローズ」を手に入れる方法
アプローズはサントリーの特注品になるので、基本的に店頭販売していません。
そのため購入するには店頭で注文するかオンライン通販を利用することになります。
染めの青バラの場合も同様で、店舗で注文するかオンラインで販売しているものを購入するのがいいでしょう。
また、染料が販売されているので自分でバラを染色することもできます。ただし、先述した通り、染めバラは色が抜けてしまうので、贈り物にする際は注意を促すようにしましょう。
まとめ
青いバラという存在しないバラを、人類はその技術と信念で誕生させました。
現在でも非常に希少で、先述したとおり青いバラは店頭では販売していません。
そのため、実物を見て比較するという実店舗ならではのメリットを享受することができません。
青いバラは「アプローズ」の場合でも、「染めの青いバラ」でも店頭で見かけることはまずありません。買うのであればネット通販で探してみましょう。
それなりの時間とお値段がするかもしれませんが、実物の見ることがまずない青いバラ、一度ご自身の手にとって、自分の目で見る経験は一生物の経験といえるでしょう。